- タリバン当局は前政権で警察に勤務した女性たちを脅迫している。警察官として働くことに反対していた家族がただでさえもたらしている危険がいっそう高まっている。
- アフガニスタンの女性警察官たちは二重の裏切りに遭っている。まず、深刻な性虐待を放置してきた前政権に裏切られ、次にそうした性虐待が起きたときにこれを無視し、さらに、保護を求める女性たちの再定住や亡命を受けつけようとしない各国に裏切られている。
- 米国、カナダ、ドイツ、EU加盟国、日本などアフガニスタン警察で女性を訓練・雇用するプログラムをかつて支援していた国は、難民としての庇護を求めるアフガニスタン女性を支援するとともに、難民としての再定住を優先的に受け入れるべきだ。
(ニューヨーク)― アフガニスタンのタリバン(ターリバーン)政権は、前政権で警察官だったアフガニスタン人女性を脅迫し、危険にさらしていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。
今回の報告書『二重の裏切り:アフガニスタンの女性警察官に対する人権侵害行為の過去と現在』(全26ページ)は、2021年8月のタリバンによる政権掌握以降、当局がもたらしている脅威を明らかにしている。これにより身元の特定を恐れて、多くの元女性警察官が身を隠すことを余儀なくされている。
前政権下では、当時雇用されていた何百人もの女性警察官が同僚や上司の男性からセクシュアルハラスメントやレイプを含む性暴力の被害に遭ったが、男性たちは一切責任を問われていない。アフガニスタン国内に留まるか、他国で身を隠したり、庇護を求めたりしている元・現職の女性警察官は、こうした過去の人権侵害行為がもたらす精神的苦痛やトラウマとともに、家族やタリバンから報復される恐怖が今も続いていると訴えている。
「アフガニスタンの女性警察官たちは二重の裏切りに遭っている。まず、深刻な性暴力を放置してきた前政権に裏切られ、次にそうした性虐待が起きたときにこれを無視し、さらに、保護を求める女性たちの再定住や亡命を受けつけようとしない各国に裏切られている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフガニスタン担当リサーチャーであるフェレスタ・アッバシは述べた。「タリバンが政権を掌握してから、元女性警察官たちは逃げざるを得ない状況にある。当局からの脅迫に加えて、警察官として働くことに反対していた家族の暴力がいっそう強まっているためだ」。
この報告書は、前政権下で警察官を務めていた女性24人へのインタビューに主に基づいている。アフガニスタの国内にいる女性については、10人と国内5州で直接会ったほか、9人にはリモートでインタビューを行った。また米国、スウェーデン、イタリア、イラン、パキスタンに住む5人にはリモートでインタビューを実施した。この問題に詳しい元・現職の国連職員やNGO活動家からも話を聞いている。
元女性警察官たちは、タリバン当局者から出頭して尋問に応じろと電話で脅されたほか、以前の職務に関連して何らかの不都合なことが起きるとの警告も受けていると述べた。複数の元女性警察官や女性刑事施設職員が殺害されているが、その仕事をしたことを家族の「恥」とする親族による犯行と見られている。タリバンはこうした殺人事件について信頼できる捜査を行っていない。女性たちは、タリバン治安部隊による家宅捜索でも人権侵害の被害に遭っており、時には親族が暴行を受けたり、持ち物が壊されたりしたと訴えた。
インタビューに応じた女性たちは、前政権下ではセクシュアルハラスメントやレイプなどの性暴力に頻繁にさらされただけでなく、昇進したり解雇を免れたりする見返りとして上司から性行為を強要されたりしたと語った。こうした人権侵害行為が広範に存在することは、少なくとも2013年以降は広く知られており、前政権を支援していた国々も把握していたが、人権侵害を行った警察官が訴追されることはなかった。
タリバンが政権を掌握すると、前政権で公務員として雇われていた女性たちは失職した。警察官も同様だった。タリバンは一部の女性警察官に対して、検問所での女性の身体検査や女性受刑者の監視など特定領域での職務復帰を命じたが、大半が警察官に代わる収入源をなかなか見つけられないでいる。アフガニスタンの経済崩壊は特に元女性警察官に大きな打撃を与えている。
多くの女性たちが隣国のイランやパキスタンに逃れたり、さまざまな国で庇護を求めたりしている。インタビューに応じたほとんどの女性たちが、過去の人権侵害行為を原因とする長期的な精神的苦痛とトラウマを訴えているが、適切な心理社会的支援を見つけたり、利用したりできずにいる。
タリバンは、元女性警察官をはじめ前政権下の公務員に対する嫌がらせや脅迫をすべて停止し、暴力事件について信頼に足る捜査を行うべきだ。米国などアフガニスタン警察で女性を訓練・雇用するプログラムをかつて支援していた国々は、庇護を求める人びとを支援するとともに、こうした女性たちを難民再定住の優先対象とすべきである。
米国は、アフガニスタン国内に留まっているか、米国の保護を求めて第三国に一時的に滞在している元女性警察官たちの再定住資格について、少なくとも他の脆弱なカテゴリーに属する人びとと同水準にすべきだ。英国、欧州連合(EU)と加盟国、カナダ、日本などは、アフガニスタン難民の再定住受け入れ枠を拡大し、危険にさらされている女性たちを優先的に扱うべきである。
「タリバンによる成人女性と少女への抑圧は元女性警察官たちに二重の苦しみを与えている」と、前出のアッバシは指摘する。「アフガニスタン警察の女性に資金援助や訓練を行ってきた各国政府は、成人女性と少女への人権侵害を一切止めるようタリバンに強く働きかけるべきだ」。
元女性警察官たちの証言
前政権期の実態
地区警察署長が夜、彼女の自宅にやって来て彼女をレイプしました。その日、彼女の夫は留守でした。彼女は私の前で泣き叫びました。夫に離婚されて子どもたちの親権も失いかねないから正式に被害を訴えることはできないのだと話していました。
―前政権の時代に起きた事件について語る元警察官
外から見ていればすべてうまく行っているようでしたが、中で実際に働いている側からすると事情は違いました。私はボディガードが女性たちに嫌がらせをしたり、呼び止めたり、さらには体に触れたりするところも目撃しました……。私は諜報部門にいましたが、責任者の嫌がらせは本当にひどいものでした。「俺はお前に何をしたっていいんだぞ」と言われました。
―前政権下での実態を証言するホースト州の元女性警察官
タリバンの政権獲得後の状況
タリバンから電話があり、仕事に戻れと言われました。私は偽名を名乗りましたが、お前は嘘をついていると言われ、とにかく仕事に戻るんだと命令されました。怖くなって電話を切りました。その後、また電話がありました。今度はこう言われました。「お前は自分で来るんだろう? そうでないならこちらから迎えに行って髪の毛を引っ張って連れて来てやってもいいんだぞ」。
―インタビュー当時は身を隠していた元女性警察官
電話で脅迫されています。今も常に脅威を感じているのです……。市場に行くときにはマスクと眼鏡で誰にも気づかれないように扮装しています……。もし見つかってしまったら、私が以前警察官だったとタリバンに密告されるかもしれません。
―インタビュー当時は身を隠していた元女性警察官